認知症

全身疾患への対応

認知症の定義としては「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害の無い時にみられる」とされています。すなわち、先天性の疾患による精神発達遅滞は含まれません。また、うつ病やせん妄といった状態も記憶障害などの認知機能障害のような症状を呈する場合がありますが、認知症ではないため区別すべき疾患になります。

認知症は実は病気の名前ではありません。症状の集合体の総称です。つまり、認知症には必ず原因となる疾患や異常が存在することを意味します。一番有名なものはアルツハイマー病があります。原因疾患によって認知症の症状も違ってきます。これについてはまた別の機会に説明します。この項では多くの認知症に共通する症状の話をしていきます。

認知症の症状は大きく分けると2つのタイプがあります。

認知機能障害(中核症状)

記憶障害・見当識障害・理解力と判断力の障害・失語・失認・失行 など

行動・心理症状(BPSD)

不安・抑うつ・徘徊・妄想・せん妄・暴力・暴言 など

認知機能障害は脳の機能がダイレクトに症状として現れたものです。側頭葉の海馬が障害されれば記憶障害が、前頭葉が障害されれば理解力や判断力の障害が生じます。かたや、BPSDは脳の機能障害と周囲の環境が合わさって生じる症状です。例えば、自分がお財布をどこにしまったかわからなくなってしまい身近な人を疑う「ものとられ妄想」という症状が有名ですが、これは記憶障害家庭環境によって生じます。また、施設から出て行ってしまい路上で保護されるようなケースは記憶障害施設入所といった具合です。

このように症状が分類されているのは、症状を分けて考える必要があるからです。特にBPSDは”周囲の環境”という点が大きく、環境さえ整えば症状が抑えられることも多くあります。なので認知機能障害とBPSDは認知症の症状とひとまとめにせず、分けて考えることが重要なのです。

歯科診療においてもこの考え方は非常に重要です。歯科診療は環境の変化としてBPSDを引き起こしてしまうこともあるからです。歯科の治療を拒否することはまだしも、歯科治療がその後の生活にも悪影響を及ぼしたとあったら大変です。

認知症患者の歯科診療において大事なポイントを以下に示します。

  • 患者・介護者とのラポールの形成
  • 認知機能障害(中核症状)による口腔セルフケア能力の低下を考慮した介入
  • BPSDによる歯科治療の拒否をなるべく回避するための関わり方
  • 進行する機能に合わせた治療やケアの提案

国家試験においても認知症関連の問題は少ないながらも必出傾向です。臨床実地問題なんかは上記のポイントを押さえたうえで解いてみるようにしてください。

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