高齢者のQOL、QOD

高齢者のための社会保障制度

QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは1994年にWHOが提唱した概念で、「一個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義されています。日本語では「人生の質」や「生活の質」などと訳されます。QOLは健康、メンタルヘルス、経済的背景、文化、教育など様々な要因に影響されるため、健康であればQOLが高い、貧乏であればQOLが低いなどと一概に決めることはできません。あくまで本人の生活における満足さ、幸福さによって測られます。

高齢者のQOLでは加齢変化によって肉体的、精神的に衰える部分が多い中でもその人らしい生活が送れるよう支えることが重要になってきます。その中でも歯科は”食”を通じて高齢者のQOLに大きく貢献できます。高齢者施設の入所者を対象とした調査でも「食べること」は高齢者の楽しみ・生きがいの1位となっているとの報告1)もあります。しかし、口腔内が原因で食べる楽しみが障害されている方も少なくありません。日本老年歯科医学会の報告では、高齢者施設に入所している方の歯科医療受療率と歯科医療の必要な方の割合を調査したところ大きな乖離があったとしています2)。口腔内をしっかりと食べられる口へと維持・管理する取り組みが高齢者のQOLの維持・向上にもつながると期待されています。

QOLは”理想的な生き方”に関わる言葉ですが、一方で”理想的な死”に関する言葉も注目を集めています。それがQOD(クオリティ・オブ・デス)です。医学の進歩によって昔に比べると寿命は延長しています。しかし延命の結果、本人の望む死に方から遠ざかってしまうケースも増えています。延命治療によって生きながらえ、ずっと病院から出られず最期を迎えるようなケースです。こうした問題に向き合う為に、元気な時から最期のことを考えようという、いわゆる”終活”が話題となってきています。リビングウィル(生前における自身による意思決定)やアドバンス・ケア・プランニング(本人・家族を中心とした医療や介護における方針を関わる全ての者で相談する取り組み)などはQODに関わる大切な取り組みだと言えます。

高齢者歯科の分野では人生の最期に居合わせることも多くあります。そんな中、本人の苦痛を取り除き、かつ安楽な状態にするため何ができるのかを歯科の立場からしっかりと考える必要があります。例えば、歯科衛生士による口腔ケアは口腔乾燥による不快感の緩和や剥離上皮(乾燥痰)の除去、口腔内の痛みの緩和などに有効です。生きるも死ぬも、ご本人の良い形で過ごせるよう、歯科も多職種の一員としてその役割を果たしていくことが重要です。

1)植田耕一郎:口腔機能の向上マニュアル~高齢者が一生おいしく,楽しく,安全な食生活を営むために~口腔機能の向上についての研究班:1-98,2006

2)平成 30 年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健増進等事業 介護保険施設等における口腔の健康管理に関する実施状況の把握及び協力歯科医療機関等の役割に関する調査研究事業報告書

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